らしく。

作詞をしています。

夏の空

今年は夏の空を見ていない気がする。

 

都会に住んでいるからか気象のせいなのかは分からないが、とにかく見ていないなと思う。

暦の上では確かに夏だし、気温や湿度を見ていても、コンビニに辛い食べ物とアイスが増えたことからも、今は夏だ。8月、お盆明け、真っ盛りだ。

けれど、空がなんだかずっと初夏だなと思う。あるいは残暑、9月末くらいの空だと思う。春と秋の間の空だ。夏は春と秋の間なのだから、それはつまり夏の空じゃないのかと言われるかもしれないのだけれど、違う。春の空と秋の空が混じっている、という意味の「間」だ。

 

あの、モゴモゴモゴッとした雲を見ていない。マシュマロで頑張って積み上げたタワーみたいな、天空の城が隠れていそうな、実際のところゲリラ豪雨を降らせるだけの、あの雲。

 

ポスターに使うアクリル絵の具を平筆でベタンと塗り広げたみたいな、彩度の高い青色に、神様がちぎった綿を重ねたみたいな立体的な白。

あの空が見たい。

アイスコーヒー、あるいはガリガリ君が世界で一番似合う背景だ。

 

見ていないな、と感じてここまでさみしく思うのは、偏に夏と夏の空が好きだからにほかならない。ギラギラした太陽の光を含めて、空から一番夏を感じられるのだ。

汗ばんだTシャツが張り付くのも、コンクリートの気化熱で蜃気楼のように少し揺らいだ空気も割合好きだ。冬よりもよっぽど外に出てしまう。太陽の光が痛いと、セミがうるさいと、呼ばれていると思う。たまらなくなって飛び出してしまう。

要するに、じっとしていられないのだ。

いつかの悪ガキだったころのまま、あるいはもういなくなったはずの悪ガキが急に呼び覚まされる。

 

そもそも、何故夏が好きなのだろう。大人になるにつれて、冬は好きだが夏が嫌いだという友人が増えた。暖かくすることは簡単でも、涼むのは工夫が必要だからかもしれない。

考えると近年は便利なグッズが増えた。学生の時は汗拭きシートや制汗スプレーが関の山だった。ハンディファンは革新的だと登場したとき思ったし、今の高校生が素直にうらやましい。あれで休み時間に涼みたかった。

体育の授業終わり、暑いからと窓を全開にして着替えていたら通りがかった先生に怒られたものだ。教室に設置されたばかりのクーラーは、先生しかリモコンを持っていなかった。

そう、そうだ。教室の窓から見る、あの空が好きだった。授業の合間に少し意識を飛ばして、ぼんやり眺める空が好きだったんだ。だから、夏の空が好きなんだ。

 

あの頃飲めなかったコーヒーが飲めるようになった。まさか真夏に吸うタバコがこんなに暑いとは知らなかったので、そこだけちょっと誤算かもしれない。

 

もう戻れない場所と固く結びついている。

だから、夏の空が好きだ。夏の空を見たい。