らしく。

作詞をしています。

東京

東京に住んでいたことがある。

2年と少し。新宿、渋谷、錦糸町、東京駅に行きやすい場所で、いい立地だったと思う。


東京に住んでいてよかったと思うことはいくつかあって、中でも、変な恐れや過度な憧れが無くなったことは特に大きい。

生まれ育った街は、日本のほとんどの他の街と同じように、東京と比べると田舎だ。急行電車は30分に一本、見かける子供より老人の数が多く、商店街はどこか陰気臭い。

首都東京。修学旅行では行かず、東京タワーもスカイツリーも見たことがなかった。通天閣の方がデカいんちゃうん。朝のニュースで特集される新作スイーツはどれもどこか奇抜で、家の近くのケーキ屋で買えるショートケーキ程美味しそうには見えない。

言葉にできない嫌悪感に似たものは、言い換えると底知れない憧れだった。

まだ見ぬ、人が溢れるコンクリートジャングルへの憧れ。平成のトウキョウドリームだったと思う。


現実は、なんてことない。東京も他の多くの街と変わらない、ただの街だった。住んでいる人がいて、その人たちの為の店があって、学校があって、バスが走っている。

朝の決まった時間に家を出て、駅に向かって、乗り換えたりする。道の途中にポコンと口を開けている小さな地下鉄の出口から、一定の間隔でたくさんの人が吐き出されて、それぞれ四角いビルにまた吸い込まれる。


なんてことない、田舎よりよっぽど規則的で同調的な、息苦しい街だった。


同時に人が多くて、その分村人Aになれた。心の底から個性的な人が溢れているから、誰もこちらなんて見やしないのだ。

同調的かどうかは、多分、生き方で決められた。私は、同調的だった。息苦しい毎日を選択していたのは、私だ。


東京は巨大で、色々な顔を持つ街だった。スカイツリーは色んなところからすぐに見つけられた。奇抜な見た目のスイーツは、中身はショートケーキとよく似た、だけど色んなものが混ざりあった美味しさがあった。


またいつか、あの街に住みたい。