ホットケーキ
ホットケーキが食べたい。
年に数回訪れる衝動が、少し強めに先週やってきた。
多少の衝動であれば我慢をして、いわゆるパンケーキやスイーツを友達と食べに行ったりする。
だけど、本当に食べたいのはパンケーキではない。
ホットケーキだ。
生クリームはいらない。口に入れた瞬間なくなるような柔らかさも、泡のように蕩ける感覚も違う。フワフワしていて、けれどナイフで切ろうと思うと少し時間がかかるような、そんな、ホットケーキ。
ずっと昔、たまの贅沢で母がホットプレートいっぱいに何枚も焼いていたような、バターじゃなくてマーガリンの匂いがする、ホットケーキがいい。
想像したらたまらなくなったので、買い物に出かけた。
必要なものは卵、牛乳、ホットケーキミックス、バターは多分高いからマーガリン。
メープルシロップで食べるのもいいけれど、ピンと閃いた。
あ、海外の朝食みたいに食べたい。カリカリのベーコンと半熟の目玉焼きを添えて、真っ白いお皿に盛りつけたい。
買い物リストに、ベーコンを追加した。
卵の安いスーパーに行くと、入り口でバナナが安売りされていた。
チョコソースとバナナで、チョコバナナなんてどうだろう。カゴにバナナを入れた。
ほかの買い物も含めてエコバック二つ分になった。重たかった。
ホットケーキミックスは、大体150~200gが3袋くらい入ったものが売られている。
一袋で4枚分らしい。1枚当たりの大きさは正確にはわからないけれど、多分、子供が目の前にしてワクワクするくらいだろう。
心当たりのある人も多いかもしれないのだが、ホットケーキミックスは気を抜くとパントリーの住人として長老、あるいはミイラになってしまう。買ってから半年、一年後にあ、そういえばと何かのタイミングで発掘し、その頃には賞味期限が切れてしまって落ち込む、というあれだ。
じゃあ、全部使うか。
家にあるボウルはそんなに大きくないので、まずは一袋分の生地を作った。
卵と牛乳をまず混ぜてから、こぼさないようにホットケーキミックスを入れる。カシャカシャ混ぜて、ダマがなくなるまで頑張って、トロっとしたら完成。
マーガリンを落として温めたフライパンを、濡れ布巾の上に一度置いて少し温度を下げて、お玉で生地を流し込む。
フライパンの上に小さい丸が3つ程現れたところで、これならあと二袋分の生地も一気に作れるなと確信した。
第一陣が黒焦げにならないよう様子を見ながら、卵を割って、牛乳を入れて、混ぜて、ホットケーキミックスを入れて、また混ぜて、今度は一回目より少し頑張ってダマをなくした。
あとはもう繰り返しの作業である。
マーガリン、濡れ布巾、生地、フライ返しでひっくり返して、両面焼いて、お皿に乗せる。
気付けば、好きな音楽に乗せてずっとホットケーキを焼いていた。3袋分、一時間、ホットケーキを焼くとどうなるであろうか。
ホットケーキタワーができた。
最後の一枚をてっぺんに乗せた瞬間、ちょっと近年にない種類の達成感と喜びが体を巡った。
忘れていた幼い日の夢を一つ叶えた気がした。
明日の朝ご飯は、カリカリに焼いたベーコンと、半熟の目玉焼きと、それから、ホットケーキタワーから何枚か食べよう。
大人になったから、ホットケーキを何枚食べたって怒られないのだ。