らしく。

作詞をしています。

幕開け

「映画館で見る映画」が、たまらなく好きだ。

映画そのものも好きだから、DVDとかテレビ放映なんかもマメに見る。

けれどどうして、映画館で見る映画に勝る空間を、未だに知らない。


違いは恐らく他者の存在だと思っている。

静謐な空間の中、何十人という人間が、極力静かに映像作品を楽しむという時間の異質さ。

作品にもよるが、その何十人の大半が大人で占められているとなお一層異質に感じる。携帯も見ず、仕事も家庭も考えること無く、ただシンとした空気の中に身を置いているのだ。

ちょっと他にはない空間だと思う。


後もうひとつ、ポップコーンとドリンクの存在を忘れてはならない。

映画館のドリンクは、あくまで感覚だが、一般的なジャンクフードのそれより大きい気がする。一回りほど。

入っている氷が細かいから、持って歩くとガショガショ音が鳴る。それがどうして好きだ。


このふたつを乗せたトレーを持って、開場したての、広告の始まっていない映画館に入る瞬間の、得も言われぬ高揚感といったら。

柔らかく、足音を吸い込むカーペットを踏んで進む。一歩足を動かす度、連動して手元のドリンクがガショガショ笑い、ポップコーンがサワサワ内緒話をするのだ。

ポップコーンの話し声は、この瞬間が一番よく聞こえる。


階段を昇ったり降りたりして、自分の列を見つけ、既に座っている人の邪魔にならないよう歩き、何故かコソコソと座る。

いいじゃないか。


異質な空間を楽しむための準備はバッチリである。

喜劇を、悲劇を、ラブロマンスを、アクションを、アニメーションを、劇場を、慟哭を、興奮を、思う存分、浴びようじゃないか。